速わかり☆移動平均法と総平均法、どっちがいい?【仮想通貨の確定申告】
仮想通貨の単価計算、2通りあるらしいけど?
暗号資産(仮想通貨)絡みの確定申告の中でも一番悩んでしまう、移動平均法・総平均法の内容と、それぞれのメリットとデメリットをチェックします。
評価方法として採用する計算方法については、確定申告期日までに、暗号資産の種類ごとに書面により所轄税務署長に届け出が必要になっています(2019年度から必要)。
予習ポイント
- 「移動平均法」は計算は複雑でも結果に納得しやすい
「総平均法」は計算は簡単でも出る結果は体感と大きく違う(ことがある)
- 計算結果は単年度では異なるが、全資産を処分したら、最終的に所得金額は同じになる
仮想通貨を売買した際の取得価額の計算方法
仮想通貨取引の代表的なものは次のようなものです。
暗号資産(仮想通貨)取引の代表例
- 売買
- レバレッジ取引
- マイニング
- レンディング・ボロウィング
- ハーベスティング
- エアドロップ
- ICO 参加
確定申告を行うときは、取引の種類ごとに仮想通貨を購入したときの単価を計算し、取引で得た利益を計算しなくてはなりません。
多くの方が行う暗号資産の購入の単価計算法は「移動平均法」と「総平均法」になります。前提として「売買のみを行っている」ケース、かつ売買は「仮想通貨」と「法定通貨(円)」の通貨ペアを想定しています。
仮想通貨と円で売買のみを行っているケース
所得税法施行令では、暗号資産(仮想通貨)の取得価額の計算方法について、総平均法もしくは移動平均法のいずれかの方法で行うことが指定されています。
税務署への届出さえ間違いなく行えば、どちらの計算方法を採用しても構わないというルールになっています。届出を怠ったり、行わない場合は、本人の意向にかかわらず総平均法で計算することになります(届出なくても罰則などはありません)。
移動平均法と総平均法を一言でまとめると
- 「移動平均法」は仮想通貨の購入のたびに、単価を出す方法
- 「総平均法」は期間をまとめて購入金額合計を購入数量合計で割り算して単価を出す方法
上のどちらの計算方法を用いるかで、原価計算の前提が違ってくるため、所得金額が異なってしまうことがあります。 しかし、将来に渡っての所得金額は一致します。つまり、どちらを採用しても所得金額は同じになります(そうでないと不公平な税制度になります)。
が、しかし、しかしです!!!
「単年度」ベースで計算と「将来を含めて」計算というのは、理論上は一致するといっても、実際のところ大きく違います。特に体感ベースでは大違いになります。 また、ある年は「移動平均法」で別の年は「総平均法」で計算するというような、都合の良いことは許されません。もし許してしまうと、調子のいい時は「総平均法」、悪い時は「移動平均法」(逆もあり)といった感じで、うまく節税できてしまうからです。
一度採用した計算方法は、原則3年間は変更が認められないというルールがあります。
税の中でも代表的な所得税については累進課税になっているため、単年度で考えれば税率が変わる可能性があります。今のご時世、来年も同じく仕事ができているという保証はなく、無職になる可能性もないわけではありません。 直近の税額が変わるため「移動平均法」にするか「総平均法」の判断は慎重に行うべきです。
例外的に、所得税法改正後の2019年度分について、計算方法の届出が義務化された初年度にあたるため、2018年分以前の計算方法から変更することが認められます。この場合、「所得税の(有価証券・暗号資産)の評価方法の変更承認申請書」を提出します。
届出を行わない場合は、これまで移動平均法で計算してきた場合(この場合はすでに届出は行っているはず)でも、強制的に総平均法で計算しなければならない(届出ていないため、デフォルトの計算法に戻される)ことに注意です。
移動平均法・総平均法の計算例
移動平均法と総平均法の計算方法とその違いを実例でチェックしてみます。
基準期間全体で、購入・売却がそれぞれ1回しかないようなケースでは、移動平均法でも総平均法でも計算結果に差が出ません。 そこで、基準期間内で売買のみを複数回行う例を考えます。
【例】ビットコインを複数回購入し売却するケース
基準期間は①~④までとします。
順 | 売買 | 購入価格×数量 |
---|---|---|
① | 購入 | 100万円×1BTC |
② | 購入 | 150万円×1BTC |
③ | 売却 | 200万円×1BTC |
④ | 購入 | 275万円×1BTC |
売却と購入の差額が所得金額になる 200万円×1BTCで売却 - (○万円×1BTCで購入)=所得金額○円
上の例では仮想通貨の購入回数の合計が3回、売却回数の合計が1回のケースです。 暗号資産(仮想通貨)を売却した時の売却時価に対応する原価(単価)について、取得価額の算出方法によって所得計算の結果が変わります。
売却しない場合は、そもそも所得金額を計算する必要はありません。
1BTCを200万円で売却した時、この「1BTCの原価(単価)はいくらか」をまず計算して、所得金額を出します。 原価(単価)の計算法が二通りあるだけで、原価が求まれば所得金額は自然に出てきます。なお、計算法(移動平均法と総平均法)は一度選んだら、3年間は変更できません。
Ⅰ 移動平均法で出してみた場合
移動平均法は、仮想通貨の単価(取得価額)は仮想通貨の購入の度に計算する必要があります。 この場合の原価は、売却するときまでのデータで計算します。つまり、表で言えば「①購入」「②購入」のデータだけで算出するので、売却後の「④購入」のデータは使わないのがポイントです。
説明の便宜上、1BTC(1ビットコイン)を1個と数えます。
順 | 売買 | 購入価格×数量 | 単価 |
---|---|---|---|
① | 購入 | 100万円×1BTC | 100万円 |
② | 購入 | 150万円×1BTC | 125万円 |
③ | 200万円×1BTC | ||
④ | 275万円×1BTC |
「①購入で100万円×1」「②購入で150万円×1」ですので、(100万円1個+150万円1個)÷2個=1個あたり125万円が単価になります。
つまり、200万円×1BTCで売却 - (125万円×1BTCで購入)=所得金額75万円となります。
【移動平均法】
- 購入のたびに取得価額(単価)を算出するので、こまめに計算する必要あり
- 感覚的に経済的な実態にマッチした計算方法
- 年度中に所得計算ができるので、所得の見積りや納税資金の準備が楽
Ⅱ 総平均法で出してみた場合
総平均法を使う場合は継続適用が条件です。都合のいいところどりはできません。
基準期間全体(①〜④の取引を含む全期間)に購入した合計額を、基準期間に購入した仮想通貨の数量で割り算して、期間全体で一律の単価(取得価額)を出します。
順 | 売買 | 購入価格×数量 | 単価 |
---|---|---|---|
① | 購入 | 100万円×1BTC | 175万円 |
② | 購入 | 150万円×1BTC | 175万円 |
③ | 200万円×1BTC | ||
④ | 購入 | 275万円×1BTC | 175万円 |
期間内で購入したのは、「①購入で100万円×1個」「②購入で150万円×1個」「④購入で275万円×1個」の部分です。
(100万円1個+150万円1個+275万円1個)÷3個=175万円が単価になります。 この単価を一律適用するのが、総平均法です。
つまり、200万円×1BTCで売却 - (175万円×1BTCで購入)=所得金額25万円となります。
ここで、この例(基準期間を通じて)が相場が上昇トレンドの場合を考えてみます。 総平均法で計算すると、時価が上昇した後半期に暗号資産(仮想通貨)の購入を行えば、単価が上がって(増大して)しまいます。 (この場合の単価は、所得計算を行う売却時に使う数字のことです。) 結果的に所得金額が少なくなりがちです。
逆に、基準期間を通じて相場が下降トレンドの場合は、同様の計算で所得金額が大きくなりがちです。
ただし、上昇(下降)相場であっても、短期でみれば時価は常に上下しているのが普通です。 そのため、いつ売買を行うか次第では移動平均法と総平均法のそれぞれで算出した単価の大小は逆転することもあります。
【総平均法】
- 年度内のすべての購入を集計し、一度で単価を計算できるので計算が楽
- 購入タイミングや市場のトレンド次第では経済的な実態とかけ離れてしまう可能性アリ
- 年度が終わるまで取得価額(単価)がわからないため、納税資金の準備が遅れがち
総平均法がデメリットになる例を考える
極端な例を考えることで、総平均法がデメリットになることもあり得ます。 先ほどの例で、「①購入で100万円×1個」「②購入で150万円×1個」「③売却」までは同じ、「④購入」時点で1ビットコインが80万円にまで時価を下げて、それを購入するようなケースを考えます。
順 | 売買 | 購入価格×数量 | 単価 |
---|---|---|---|
① | 購入 | 100万円×1BTC | 110万円 |
② | 購入 | 150万円×1BTC | 110万円 |
③ | 売却 | 200万円×1BTC | |
④ | 購入 | 80万円×1BTC | 110万円 |
「①購入」「②購入」「④購入で80万円×1個」ということになると、(100万円1個+150万円1個+80万円1個)÷3個=110円が単価になります。 総平均法で計算して、200万円×1BTCで売却 - (110万円×1BTCで購入)=所得金額90万円となります。
移動平均法で計算した場合は所得金額75万円だったのに対し、総平均法では所得金額90万円になってしまいました。
たとえ理屈の上では将来的に所得金額は一致するということではあっても、移動平均法と総平均法を比較した場合、計算で出てくる単価の違いは感覚的な受け入れやすさに直結します。
だから、移動平均法を使う人が増えているんだね
本例は極端な価格変動を想定しましたが、それでも移動平均法の方が、感覚的には受け入れやすいのではと思います。 経済的な実態に合っているのも移動平均法といえます。
総平均法と移動平均法の大きな違いは?
感覚的な受け入れやすさはさておき、計算結果が違ってくるのはどういう理由からでしょうか。
移動平均法と総平均法で一番何が違うのかという点を考えてみます。
実際計算すると実感しますが、購入した暗号資産(仮想通貨)の単価をどの時点で計算するかという点が大違いです。 移動平均法では購入ごとに単価を計算し、総平均法では基準期間末にまとめて単価を計算します。
移動平均法と総平均法の何が違う
- 購入した仮想通貨の取得単価を計算するタイミングが大違い
総平均法と移動平均法では本質的な違いはあるか?
暗号資産(仮想通貨)の取得原価の計算方法として、総平均法と移動平均法の二通りが選択的に認められていることは述べました。 気になるのは、どちらを採用するかによって、本質的な不公平が生じるのかという点です。
どちらの計算方法を採用するかによって、単年度で見た場合は計算結果は(大きく)異なる(ことがある)のが普通ですが、長期で見れば所得金額は一致します。
問題は、その長期(将来にわたって)というのはどういうことかということになりますが、すべての資産を売り払った場合という前提があれば、将来にわたって生じる所得金額は同じ結果になるということです。 儲かってはいるけれど売らない、まだまだ売らないなどの駆け引きをしながら、暗号資産を増やすことを考える人も多いはずですので、このような場合は、総平均法と移動平均法のどちらで行くかは、税額に大きく影響することがあります。
移動平均法・総平均法で楽に計算するには?
簡単に移動平均法と総平均法のそれぞれの計算方法をチェックしてみました。 「最終的な結果は同じになるので、どちらの方法でも同じ」、とあいまいにまとめられても、いざ税金を納める段階で計算法の違いが重くのしかかります。長期で見れば、理論上払う税額は同じくらいになるとしても、今払うか、後から払うかでは個々人の感じ方が大きく違うはずです。 できれば、余裕のある時に払い、ない時は絞りたいというのが普通ですね。
例ではかなり簡単にした数字で計算を行いましたが、移動平均法や総平均法の計算を、それぞれのデータを用意して手作業で行うのは、時間と労力を覚悟しなくてはなりません。
また、計算例を簡単にするために省略しましたが、仮想通貨取引による損益は交換でも発生します(暗号資産同士の交換)。 取引ごとに通貨の時価を出す必要もあることはおさえておきましょう。
最後に、手間を省きたいなら無料で利用できる「クリプトリンク」などを利用してみてください。
そうさ、どちらで計算するかは自分の置かれた状況次第さ